ビジョンシステムに最適なカメラの選定方法
ビジョンシステムの構築において、膨大なラインナップの中から最適なカメラを見つける作業は、決して簡単ではありません。以下では、カメラのスムーズな選定をお手伝いするため、技術・機能面の仕様の違いについて詳しく解説します。

カメラの選定要件
カメラを選定するうえで、まず重要となるのが以下の2点です。
撮影対象
撮像方式
上記を確認することで、カメラ選定の方向性が定まります。
要件1:エリアスキャンカメラ vs ラインスキャンカメラ vs 3Dカメラ
産業用カメラ(マシンビジョンカメラ)は、その撮像方式の違いにより、エリアスキャンカメラ、ラインスキャンカメラ、3Dカメラに分けられます。カメラの種類によって特性が異なるため、実際の用途や要件に応じて選択するとよいでしょう。

エリアスキャンカメラ
エリアスキャンカメラは、長方形のセンサー面に配置された画素を一度に露光(一括露光)するため、画像の取得・処理が同時に完了します。
主な用途には、工業、医療・ライフサイエンス、交通・輸送、セキュリティ・監視があります。

ラインスキャンカメラ
ラインスキャンカメラは、1~3列に配置された画素を1列ずつ露光(順次露光)した後、処理工程を経て1枚の画像に合成します。
主な用途には、印刷、選別・仕分け、包装、食品検査、表面検査があり、ベルトコンベヤー上を高速で移動する物体の撮影に適しています。

3Dカメラ
3Dカメラは、Time-of-Flight(ToF)、ステレオ計測、構造化光などの撮像方式と特殊なセンサーにより、対象となる物体・背景の空間座標と奥行き情報を取得することで、2D画像と3Dモデルを生成します。
主な用途には、ロボット、自動化(ファクトリーオートメーションなど)、物流(計量、物体認識など)、医療(術中ナビゲーションなど)、エンターテイメント(アニメ、仮想現実(VR)など)があります。
要件2:モノクロカメラ vs カラーカメラ
モノクロカメラとカラーカメラのいずれを選択するかは、撮影後の画像解析において、色情報が必要かどうかによって決まります。色情報が必要ない場合は、感度と解像度が高いモノクロカメラがおすすめです。なお、高度道路交通システム(ITS)などの用途では、それぞれの国や地域が定める画質の証拠画像を撮影するため、モノクロカメラとカラーカメラを組み合わせて使用することもあります。

要件3:センサー種別、シャッター方式、フレームレート
センサー種別(CMOS vs CCD)、シャッター方式(グローバルシャッター vs ローリングシャッター)、フレームレート(1秒間に撮影可能なフレーム数)は、いずれも十分な検討が求められる要件です。

CCDセンサーとCMOSセンサーの違い
CCDセンサーとCMOSセンサーの基本的な違いは、その構造にあります。
CMOSセンサーのセンサー面には、光(光子)を電気信号(電子)に変換するコンバーターが搭載されており、画像データの読み出し速度と柔軟性の両方に優れているため、一眼レフなどの民生用カメラにも多く採用されています。
一方、CCDセンサーは、光感度と画質が非常に高く、天体観測など暗所での撮影に適していますが、読み出し速度に限界があるため、高速撮影や動体撮影にはおすすめできません。
CCDとCMOSの比較に関する記事へ
シャッター方式:グローバルシャッターとローリングシャッター
撮影用途に応じてシャッター方式を決定することも、カメラの選定において非常に重要です。シャッターが開くことで、カメラ内部のセンサーに光が入るため、露光時間(シャッターが開いている時間)を変更することで、センサーの受光量を調整できます。シャッター方式には、グローバルシャッターとローリングシャッターの2種類があり、それぞれ露光方法が異なります。
シャッター方式に関するホワイトペーパーへ
フレームレート
フレームレート(fps)とは、1秒当たりに撮影可能なフレーム数を示したもので、その値が大きいほど撮影速度が向上しますが、同時にデータ量も増大します。
ラインスキャンカメラの場合、「フレームレート」の代わりに「ラインレート」や「ライン周波数」という用語を使用することもあります。
一方、エリアスキャンカメラの場合、インターフェースの種類やフレームレートによって、処理可能なデータ量が大きく異なります。特にフレームレートについては、10fps(低速)から340fps(高速)まで幅広く存在するため、実際の撮影対象を考慮したうえで、それぞれのビジョンシステムに合った数値を選択することが重要です。
要件4:画素数、センサー、ピクセルサイズ
画素数、センサー、ピクセルサイズは、画質や光感度などのカメラ性能を大きく左右する要素であるため、用途に応じて慎重に選定する必要があります。

画素数
カメラの製品仕様には画素数が記載されています。例えば、「2048×1088」の場合、センサー面の横方向に2048個、縦方向に1088個の画素(ピクセル)が配置されており、これらを掛け合わせた値の2,228,224ピクセル、つまり約2.2MP(1MP=100万ピクセル)による撮影が可能という意味になります。
撮影に必要な画素数を決定する際には、以下の計算式を使用します。
必要な画素数=対象物のサイズ÷判別部位のサイズ
例えば、身長約2mの人間を撮影し、その目の色を1mm単位で判別したい場合、計算式は以下のようになります。
必要な画素数=身長÷目の判別部位のサイズ=2,000mm÷1mm=2,000ピクセル×2乗=4MP
つまり、目の色を正確に判別するには、最低でも4MPの画素数を確保しなければなりません。
センサーとピクセルサイズに関する注意点
1.
センサーは、光を信号に変換することで、画像データの生成や処理を行いますが、その際センサー面に配置された画素のサイズ(ピクセルサイズ)が大きいと、より多くの光を取り込むことができます。特にピクセルサイズが3.5µm以上の場合、受光面積が広いため、SN比(信号対ノイズ比)が向上します。画質の指標でもあるSN比は、一般に42dB程度あれば、鮮明な撮像が可能であると考えられています。
2.
センサーが大きいほど、より多くの画素を配置できるため、撮影画像の解像度が向上します。また、小型センサーよりピクセルサイズが大きく、SN比に優れているという点も、大型センサーのメリットです。
3.
画素数の高い大型センサーを使用したとしても、レンズの解像力が低ければ意味がありません。センサーの性能を最大限に引き出すには、センサーの画素数に合ったレンズを選定することが重要です。(レンズ選定に関する記事はこちら)
4.
面積の広い大型センサーは、使用されているシリコンの量が多いため、結果としてコストがかさみます。
要件5:インターフェース、筐体サイズ
インターフェースと筐体サイズは、システム全体の性能だけでなく、柔軟性や互換性にも影響を及ぼします。以下では、最適なシステム構築に向けて、インターフェースと筐体サイズを決定する方法について解説します。

インターフェース
インターフェースには、カメラとコンピューターを接続し、センサーで取得した画像データを画像処理ソフトウェアに転送する役割があります。用途に合ったインターフェースを見つけるには、さまざまな要素を検討しながら、性能・コスト・信頼性のバランスを取らなければなりません。
現在広く普及しているインターフェースには、GigE Vision、USB3 Vision、CoaXPress 2.0などがあり、対応するカメラやアクセサリーも豊富にラインナップされています。なお、旧世代のインターフェースであるFireWire、USB 2.0については、最新のビジョンシステムでの使用はおすすめできません。
インターフェースの比較に関する記事へ要件6:カメラ機能
一般的なカメラと同様に、Baslerカメラにも画像補正、画像解析、撮影制御など最適な撮像を実現するためのさまざまな機能が搭載されています。
ビジョンシステムに求められるカメラ機能には、主に以下の3つがあります。
ROI(関心領域)
画像処理の範囲を指定する機能です。解析対象を絞り込むことで、画像データの読み出し速度が向上します。また、複数のROIを設定することも可能です。
自動補正
Baslerカメラには、自動補正機能が多数搭載されています。例えば、自動露光補正と自動ゲイン制御を使用し、周囲の環境変化に応じて露光時間とゲイン値を調整すれば、画像の明るさを常に一定に保つことができます。
シーケンサー
画像データを指定した順番で自動的に読み出す機能です。複数のROIを設定することも可能です。
最新のCMOSカメラを比較するための最適な方法とは?
ほぼすべてのセンサーモデルについて、それが使用されている異なるメーカーのカメラが相当数存在する。センサーだけが同じであれば、これらのカメラは同等なのでしょうか?ユーザー、開発者、プロジェクトチームが適切なカメラを選択するためには、どの点が重要なのでしょうか?この決定は用途や要件によって異なります。

重要性の高いEMVAデータ
欧州マシンビジョン協会(EMVA)のEMVA 1288規格は、カメラとセンサーの性能測定について定めたもので、カメラを選定する際に非常に役立ちます。
EMVAデータを比較すれば、カメラが十分な画質と感度を備えているか、実際の用途に適しているかなどを判断できます。
ただし、線状ノイズ、ランダムノイズ(ホットピクセルなど)をはじめ、目で見て明らかであるにもかかわらず、EMVAデータの数値からは把握できない画像の不具合も存在します。
これらの不具合を確認するには、実際の撮影環境においてデモ機を使用した試験を行うとよいでしょう。その際、業界規格に準拠した大手メーカーのカメラであれば、試験や調整にかかる時間も抑えられます。
その他のポイント:ファームウェアとデータ転送の安定性
ファームウェアは、同型センサーを搭載したカメラに大きな差を生む要因となります。ここでは、汎用ソフトウェアインターフェース規格のGenICamやマシンビジョン向けインターフェース規格のGigE Vision、USB3 Visionに準拠しているかどうかが重要になります。これらの規格は、通信チャンネルやカメラインターフェースについて定めたもので、システム構築にかかる労力の削減やデータ転送の質の向上が期待できます。
また、ファームウェアの性能によっても、さまざまな違いが出る場合があります。すべてのカメラメーカーがカメラ制御専用のソフトウェアやドライバー、さらには各種OSとプログラミング言語に対応した開発環境を用意しているわけではありません。しかし、カメラのセットアップを含む重要なデザイン・インの工程では、これらが必要不可欠になります。
もう一つの要因として、データ転送の安定性もカメラの性能に影響します。特に帯域幅やフレームレートが大きい場合は、フレームバッファ機能を持つファームウェアを搭載することで、データ転送の安定性を大幅に向上させることができます。
このように、同型センサーを搭載したカメラであっても、ファームウェアによって撮像結果が大きく変わります。そのため、一般的なファームウェアまたは独自のファームウェアにかかわらず、ビジョンシステムの性能向上にファームウェアは欠かせないといえるでしょう。
Baslerオンラインツール
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