マルチスペクトルイメージングとは?
人間の目に見えない情報を可視化することができるマルチスペクトルイメージング。その定義と産業用画像処理におけるメリットについて、マルチスペクトルカメラの構造や仕組みとともに解説します。
マルチスペクトルイメージングの参考事例
マルチスペクトルイメージングの定義
特殊な画像処理手法であるマルチスペクトルイメージングは、色の識別はもちろん、可視光(380~780nm)以外の特定の波長帯域の光を捉え、画像データに変換することができます。この波長帯域はスペクトルバンドとも呼ばれており、一般的な産業用マルチスペクトルカメラは3~15バンド、さらに高度なハイパースペクトルカメラは数百バンドに対応しています。
特に赤外線をはじめとする非可視光の情報は、生産の効率化や品質管理の向上を図るうえで重要になるため、さまざまな業界において、マルチスペクトルイメージングによる新たな用途の開拓が進められています。
マルチスペクトルイメージングの種類
マルチスペクトルイメージングには、プリズム分光式、フィルターホイール式、フィルター分光式の3種類があります。
プリズム分光式
以下の4つの光学素子を搭載したカメラを使用して撮影する方法です。
プリズム
入射光を複数の波長に分割
センサー
光を電気信号に変換
回折格子
特定の波長の光を除外
レンズ
集まった光を結像
上記の光学素子を組み合わせれば、高解像度のマルチスペクトル画像を生成できますが、光学素子の調整・配置を正確に行い、最適な撮像を実現するには、多大なコストがかかります。
フィルターホイール式
カメラに搭載したホイールを回転させることで、フィルターを切り替えながら、各波長帯域の光を連続撮影する方法です。撮影速度が遅いため、特に動体撮影において画像のブレや欠損が発生するおそれがあります。
フィルター分光式
CMOSセンサーにバンドパスフィルターを取り付ける方法です。フィルターを内蔵しているため、追加の光学部品なしで複数の波長の光を同時に捉えられるほか、センサーにかかるコストが低く、既存システムへの導入も簡単です。
マルチスペクトルイメージングの用途
元々は航空宇宙、ライフサイエンス、科学実験の分野において使用されていたマルチスペクトルイメージングですが、最近ではプリント基板検査(不良・欠陥の検出)や銀行(紙幣鑑別)、皮膚科(病変部位の特定、皮膚疾患の診断)などにも導入されるようになりました。
食品・農業におけるマルチスペクトルイメージングの活用
食品・農業は、マルチスペクトルイメージングが特に普及している分野です。
農業
農業分野では、農家による作物生育状況の解析のために、マルチスペクトルカメラを搭載したドローンが活用されています。ドローンにより撮影した農地の高解像度画像は、地上のコンピューターに転送されます。こうすれば、葉や茎の色から病害虫の有無や必要な農薬がわかるため、資源の節約や環境保護につながります。
食品
食品分野においても、マルチスペクトルイメージングは大きな威力を発揮しており、異物検知による不良品の選別をはじめ、生産現場の品質管理の向上に貢献しています。石、汚れ、その他破片の識別が難しかった従来の産業用カメラと異なり、マルチスペクトルカメラなら構造物の微細な違いまで捉えることができます。
マルチスペクトルイメージングの今後の展望
技術の進歩とマルチスペクトルカメラの普及が進むなか、画像解析精度のさらなる向上により、幅広い業界がマルチスペクトルイメージングの恩恵を受けることが期待されています。